私がこの体験をする始まりは、友人からの1本の電話。畳職人学校時代の友人から「い草刈り体験行かない?」との誘いに、一も二もなく参加の返事をしました。
畳職人たるもの、やっぱり一度はい草の本拠地・熊本県八代市へ行き、畳職人にとって重要ない草農家さんがどんな風に作っているのか、実際にこの目で見たい思ってたんです。このチャンス、逃す手はない!
2018年7月3日~5日の2泊3日で「い草刈り体験」に行ってきました。単なる観光的な農業体験ではない、畳職人ならではの体験レポートをお伝えしていきます。
1日目全国各地の畳職人が集結し改めてい草を学ぶ
熊本県八代市と言えば、日本一のい草生産地であり、国産の畳表生産量NO.1の場所です。今回のい草刈り体験には、日本全国から畳職人が集まってきていました。
明日はここから数人のチームに分かれ、実際にい草を栽培している農家へ体験に行くことになります。
初日は畳職人の交流会のほか、い草の育ち方、刈り方、安物と高級品の見分け方などを学びました。
中国産と国産の見分け方は知っていたけれど、国産のい草の畳表の中でも下級品と上級品がありその見分け方を教えてもらって、目から鱗が落ちまくりの1日でした。
2日目早朝2時から作業。大雨でも休みません
農家の朝は早い…。良く聞く言葉ですよね。なんとい草農家さんの朝は、外が真っ暗の2時からスタート!
前日に刈り取り、泥染めまで行ったい草を、乾燥機から取り出します。これがいわゆる「釜あげ」と言われる作業。取り出したい草は黒い袋に詰め、日の当たらない場所に移動させてゆっくりと寝かせます。
この作業を、6時の朝食まで続けました。朝ごはんがすごくおいしかったです!!朝食のあとは畑に出て「い草の刈り取り」作業です。
まずはい草が倒れないように支えていた網を外します。い草の長さは私の身長を超えるほど!
そんな高く成長したい草を傷つけないように網を外すのは、意外と大変な作業です。
台風が近づいているため、あいにくの天気。(実はこの後、大雨になります・泣)
しかし、色鮮やかな緑のじゅうたんが広がる風景は心が癒されます。
いざ、い草の刈り取り!
昔はすべて手作業で刈り取っていたらしいのですが、現在はハーベスタという、い草を刈る専用の機械で行います。
ただし、その機械を畑に入れるための部分は、今でも手作業で刈り取りを行っているそう。今回も、ハーベスタがしっかりと入るスペースを確保するため、手作業で刈り取りを行います。
この鎌、すっごい刃が研いであってスパッと切れる。気持ちいい~。
刈り取ったい草は、ある程度の束にまとめたあと振り回します。実は、この振り回す作業が大事!い草は長さが揃っていたり、青々としていたりということがとても重要なので、振り回すことで長いい草に混じっている短いい草や、枯れたい草を振り落とします。
短い草や刈れた草を落としおわったら、ひとまとめにします。
ハーベスタを利用すると、刈り込みからひとまとめにするまで一度にしてくれるのでとっても便利!
このあとトラックに積み込みます。積み込み作業の合間に、記念撮影。大雨なのでみんな雨具着用です。
今回、い草刈り体験に私たちがきたので、雨の中でも作業をしてくれたのかと思ったら、大雨でも刈り込みの作業は行っているのだそう。
その理由は、い草は長く成長しすぎてもダメなんです。ここ!というベストなタイミングを逃さずに刈ることが大切なため、よほど大荒れの天気じゃない限り、刈り取り作業はお休みしません。農家さんに脱帽です。
刈り取った後は、すぐに「泥染め」の作業を行います。
「泥染め」は、畳のあの清涼感漂う独特の香りや風合いを生かすために欠かせないもの。い草が新鮮なうちに、作業を行うことも大切です。
「泥染め」に使用される染土は、淡路島のもの。しっかり泥がコーティングされるように、慎重に泥染め用の機械に入れていきます。
泥染めをしたい草は立てかけ、ゆっくり乾燥させます。泥染めをしても、い草が泥だらけになるわけではなく、みずみずしい姿をしています。
窯出し→刈り取り→泥染めを行って、本日の作業は完了!
朝食や昼食などの休憩もありましたが、基本的にはがっつり仕事が詰まってる感じでした。また明日、釜あげの作業を元気に行うために、これからしっかり休みます。
3日目いろんな農家さんへ見学に行ってみた
せっかくい草の生産日本一の場所に来たのですから、いろんな農家さんを見学したい!朝に釜あげの作業を行ってから、他の農家さん見学に出かけることにしました。
同じ矢代市の中なのに、農家さんによって栽培されているい草の種類が違っていたりして、すごくためになる発見がたくさんありました!
い草刈り体験をしたからこそ分かったこと
畳職人ですから、毎日のように畳表に触れています。しかし、産地に来ると改めて勉強になるポイントが多かったです。
その中でも驚いたのは、高級畳は青々とした草の色(ただし人工的ではない色)をしていると思っていたのですが、それって今は違うとのコト。
実は、あの青々とした色は、泥染めの中に水性ペンキを入れたりしていたのだそう。実際、今でも中国では行っていますが、日本で行っていることはほぼありません。
つまり、国産のい草を使った高級な畳ほど、白っぽい風合いをしているのです!そういう加工だと思っていたのですが、あの白さは高級がゆえの色だと知りました。
平成元年には5400件ほどあったい草農家さんは平成18年には440件に減少。その中で、後継者がいる農家さんはわずか2%しかいません。つまり、10件程度しか後継者がおらず、このまま日本からい草農家さんがなくなってしまう可能性が高いんです!
畳屋の三代目として、一人の畳職人として、もっともっと国産畳の良さを日本人に知ってもらいたいと思いました。
今まで知識として知っていたことに、今回の経験が加わったので、帰ってきてから、お客さんとのお話にも深みが増しましたし自分の目も肥えた気がします。
農家さんのたっぷりの愛情と手間ひまかけて育てられたい草に、私たちの畳への心意気もプラスしてこれからもお客様に満足していただける畳を作り、届けていきたいと思います!